経営難に陥った介護事業所への「最初の処方箋」

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介護事業所の経営は、そう簡単ではありません。
というのも、「利用者補助方式」の準市場でありながら、激化する競争に耐えぬいていかなければならないからです。

では、最初に「利用者補助方式」の準市場というところから見ていきたいと思います。
ここからは、以前の記事「これからの介護に必要なこと 後編」をもとに要約して説明させていただきます。

準市場への理解

経営サイドの方にとって、介護はあくまで準市場であるということを、今以上に理解を深めることが、これからの介護に必要なことなのだと思います。

準市場は、医療福祉など公的サービスにおいて、部分的に市場原理を取り入れている場合の総称。擬似市場。【参考:Weblio辞書

介護サービスの起業をした方でなくても、介護に携わる方であれば、介護サービスは費用の9割が保険から給付される「利用者補助方式」の準市場である、ということくらいは理解していると思いますが、

  • サービスの供給者には、利益の最大化を目的としない公的部門や非営利団体も含まれている
  • 多くの場合、サービスの直接の利用者がサービス購入の選択を行うのは難しく、ケアマネジャー等の第三者(代理人)に決定を委任している
  • 介護保険料は、市町村が3年ごとに作成する介護保険事業計画にもとづき決定され、介護報酬単価は国が決定する公定価格、3年ごとに改定される。
  • 介護サービス市場の拡大は、介護保険財政に制約される

といったことは、理解されているのでしょうか?

【参考:公正取引委員会 準市場論の視点から

デイサービスであれば

在宅サービスであれば参入障壁は低く、小規模のデイサービスは、わずか8年程で約3倍の事業所数となりました。
ですが、小規模デイサービスは競争が最も厳しく、収入を上げていくのも難しいため、経営不振から別の会社へ事業所を引き渡すといったことも多く見られます。

もっと詳しいデイサービスの実情
以前の記事、デイサービスの実情では、以前に私が働いていたデイサービスを例に、デイサービスの実際の状況についてお伝...

介護サービスという準市場の特徴

競争だけであれば伝統的市場と同じですが、介護サービスの収入は上限が定められています。
伝統的市場であれば、収入を上げていくことによって利潤の最大化を目指しますが、介護サービスはあくまで準市場なのです。

つまり、介護サービスは、競争という部分が伝統的市場で、

  • 収入の上限が定められている
  • 消費者と生産者という二者間が中心ではなく、消費者と供給者と第三者で成り立っている
  • 収入に関わる公定価格は3年ごとに改定される

といった部分が準市場という、少し複雑なものなのです。

民間企業について

平成27年2月に発表された厚生労働省-介護人材の確保についてを見ると、事業所規模別では、事業所の規模が大きくなるほど離職率が低くなる傾向が見られ、法人格別では民間企業の離職率が他から頭一つ分飛び出しているということがわかります。

老人福祉・介護事業の倒産件数のデータでは、今のペースであれば、2015年は、前年の倍以上の倒産件数になるということを表しており、介護保険法が施行された2000年以降では過去最多のペースで推移しているということになります。

離職・経営、どちらに関しても、やはり会社が安定しているかということが大きく関係していると思われます。

これは、なぜ安定しないのかと考えるとわかりやすいのですが、3年ごとに改定される介護報酬に大きな影響を受けてしまっているからということになります。

介護サービスという準市場を理解する上では、

  • 介護報酬は3年ごとに変わっていく
  • 収入の上限が定められている

という2つを忘れないことが、とても大切なことです。

経営で考えるポイント

ここからは、以前の記事「介護を変えてほしい 改革の具体案 経営編」を要約したもので説明させていただきます。

経営としては、やはり「売上」が運営していくうえで最も大きなポイントとなります。
ここで大切なのが、「支出の詳細を知る」ということです。
では、ここからは、その費用についての具体的なところを説明させていただきます。

固定費用と変動費用

家賃や管理費は、絶対的にかかる出費ですが、必要物品の購入やガソリン代などは、その月によってバラバラです。
また、介護という業種は、収入に比べて支出が多いという現状があります。
そのなかで最も大きな割合を占めるのが給与費です。

では、ここで厚生労働省より公表されている「平成 26 年介護事業経営実態調査結果の概要」の中から、収入に対する給与費の割合とその推移を見ていきたと思います。

サービスの状況

【参考:平成 26 年介護事業経営実態調査結果の概要

給与費割合の推移

ちょっと字が小さいのですが、上の資料から見てわかるように、収入に対しての給与費の割合が70%を超えているところもあります。
これらを、施設系・訪問系・通所系・その他の4つに分類し、平成23年度と比較すると、その推移は以下の表のようになります。

給与費

【参考:平成 26 年介護事業経営実態調査結果の概要

収支差率の推移

介護という業種では、変動費用を抑えることが利益を上げる大切なポイントとなりますが、その種別によって変動費用は大きく異なってきます。
次に4つに分類された収支差率の推移は以下のようになります。

収支差

【参考:平成 26 年介護事業経営実態調査結果の概要

最初の処方箋

介護事業の経営のポイントは、

  1. 変動費用を抑えること
  2. 収支差率・給与費割合を知ること

の2つは経営を安定させる上で大切なことですが、給与費を抑えることも大切なことです。
これは、ただ単に「職員の給料を下げろ」と言っているのではなく、必要以上に支払っているのだとしたらそこを改善すべきではないのか、ということです。

つまり、最初の処方箋としては、「派遣労働者は無駄に多く雇うべきではない」ということです。

派遣労働者の特徴

人員基準を満たすためにも、「人がいなければ派遣を雇うしかない」と思いがちですが、派遣労働者の雇用主はあくまで派遣会社だということは忘れてはいけません。

ここで派遣労働者の主な特徴を3つあげていきます。

  1. 雇用主は派遣会社である
  2. いつ辞めてしまうのかが派遣労働者次第である
  3. 派遣は給与が高い

中でも、3の「派遣は給与が高い」というのが、今回のメインテーマになります。

雇用主は派遣会社である

派遣社員の中には、よく働く人もいれば、自分勝手な人もいます。
これは、雇用主・給与の支払い元が派遣会社であるということが大きく影響しています。

つまり、うまく飼いならせなくても仕方ないといえば仕方ないのです。

ですが、何かトラブルがあった時の責任は当然派遣会社を雇った施設側にあるのです。
もちろん損害賠償という最悪のケースになれば、場合によっては派遣会社にも責任があることなのですが、派遣社員本人は「派遣社員だから」というの意識で働いていることがほとんどということは忘れてはならないのではないでしょうか?

いつ辞めてしまうのかが派遣労働者次第である

派遣を雇うという状況であるなら、その施設の背景には当然人手不足があると思います。
その派遣労働者からしても「派遣は融通が効く」と考えて派遣を選んでいるというのは周知の事実ですが、その派遣社員の要望を全て鵜呑みにするということは、他の正社員やパートなどを犠牲にするということでもあります。

それが最終的に、直接の雇用に結びつくのであれば話は別ですが、そうでないのなら、いつ辞めてしまうのかもわからない派遣社員に振り回され続ける結果となるのではないでしょうか?

派遣は給与が高い

有料老人ホームなどでは、他の介護サービスよりも収入があるにも関わらず何故かうまくいかないといった状況のところが多いのではないでしょうか?

その答えは、派遣社員の給与にあります。

私が以前に働いていた有料老人ホームでは、職員の7割が派遣社員という最悪の状況でした。

派遣にはいくら支払っているのか?

派遣の給与は、その派遣社員に支払割れている給与の大体1.5倍くらいということは、経営に関わっているのであれば当然知っていなければならないことです。

つまり、その派遣社員の給与が20万だとしたら、派遣会社には30万を支払わなければならないのです。
ですので、派遣社員を雇う施設の経営側の人間は、常に「それだけの価値があるのか」という考えを持たなければ、リスキーなだけということなのです。

まとめ

収入に占める給与費の割合を考えればわかることですが、介護は給与費に大部分を持って行かれる業種です。

もし、派遣社員を多く雇うのであれば、一人につき10万円近くを支払わなけばならないので、派遣を多く雇うということは、自らで経営難に陥れる選択をしているということなのです。

具体的な例

派遣社員一人につき10万円近くを支払うのであれば、今いる正規雇用の職員をうまく説得することが支出を抑える最も近道です。

例えば、「言葉使いが悪い」「態度が悪い」といった職員に「今後、振る舞いを改善できるなら時給を50円アップする」と伝え、署名をしてもらったとします。
一見無駄なことに思われるかもしれませんが、その職員がその約束を守ったら、時給で50円、20日出勤の月計算なら8000円の支出で抑えることができるのです。

また、派遣社員の多くは、その施設が実際にどれだけの費用を派遣会社に支払っているのかを理解していませんので、「うちの社員になってくれるのなら、時給計算で100円アップする」と伝えたとしても、月の支出を16000円弱で抑えることができるのです。

これは、募集の時点で時給を高く設定しても、正規の雇用であれば同じことが言えます。

そもそも

有料老人ホームのような極端な人手不足は、経営サイドの現場への理解の薄さが原因のことがほとんどです。
ですので、まずは、経営サイドが現場を理解して、現場に無駄な負担をかけないようにすることが優先です。

その最善策としては、

  • 経営サイドも研修として、現場でローテーション勤務をすること
  • 現場にしかわからない状況を理解するためにもアンケートなどを実施する
  • 副施設長といった本気で無駄な立ち位置の職員をなくす

といったところが考えられます。

結局、現場を面倒臭がって避けていた結果が人員不足となっているのです。

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kumo

他も見てみたいという気持ちから特養、有料、ショート、デイ、訪問入浴で働いてきました。 特養では介護職として、デイサービスでは立ち上げから運営、そして現在は都内の施設で現場もこなす生活相談員として働いています。 自分の家族介護と介護士としての介護の経験が少しでも介護に悩む方の力になれたらと願っています。
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